起業’s Barインタビュー 起業ストーリーを先輩経営者から学ぼう!
「本川起業’s Bar」は、毎回ゲストをお呼びして、起業にまつわる様々なエピソードを伺い、経営者マインドを学ぶ会です。 いつもは、後日動画で配信していますが、第28回目は、音声の調子が良くなかった為、書き起こして配信します。 |
後編はファシリテーター山崎さんとのインタビュー形式で経営者マインドを振り返ります。
【山崎】ありがとうございました。
お話を伺いながら学びもたくさんあって面白く聞き入ってしまいました。
ここからは、質問しながら進めて行ってもいいでしょうか?
奥様と留学中に出会われてご結婚し、最初の2年間は大手の企業にお勤めされて海外転勤を断り熊野に戻られ
晃祐堂に入られたということで、最初は社員として修行されたということでよろしいですか?
【土屋】そうですね。最初の6年間はずっと熊野筆、書道筆を作りながら、熊野中の筆屋さんを回っていました。
【山崎】結婚された時から、後を継ぐという意識があったのでしょうか?
【土屋】それは無かったですね。義弟が社長になると思っていたので、ある程度の線路を引いてバトンタッチという
感じだと思っていました。社長になるとは思っていなかったです。
【山崎】最初から跡を継ぐ、社長になるとわかっていたら、すごく覚悟がいると思うのですが、
それでしたら最初は飛び込みやすかったでしょうか?
【土屋】そうですね。最初に就職した会社は上場企業でしたが、自分は役立っている気がせず、
一歯車にしか思えなかったんです。いい会社でしたけど。
その点、ここなら自分も役に立てるのではないかと、将来のこと(社長になる)はあまり考えていませんでした。
【山崎】最初に筆作りをされる段階で基本的なことを学んで、企画をされ始めたのはいつ頃からでしたか。
【土屋】最初の3年間で書道筆の基礎をしっかり学び、そこからですね。提案できるようになったのは。
入社間もない素人の話を聞いて、新しい筆作り?そんな説得力は無いですから、最初の3,4年は必死で筆を作り、
実際に自分が作った筆をお客さんが使ってくれ、だんだんと実績をつんだ上で、新たな提案ができるように
なりましたね。
【山崎】自分の考えだけだとお客様のニーズに合ってないこともある中、土屋さんは、直にお客様からお話を聞いて
ヒット商品につながるのだと感じます。そういうことは、最初から心がけていたことですか?
【土屋】最初、そこは、わからなかったです。いいものを作れば勝手に売れると。
でも、やはりお客様のニーズを掴まないと、どんなに良い筆を作っても、その人にとって、本当に良い筆が
必要なのか、コストなのか、何なのかを把握しないと難しいと気付きました。
化粧筆の方はターゲット層が女性で、販売の場所もデパートで、イベントをしても最初はお客様(女性)と
口を聞けなかったんです。
【山崎】本当ですか?意外です。笑
【土屋】挨拶さえ、固まって言えなかったです。それが、段々、お客さんが使ってくれた声を聞くことで、実績を積み、
声もかけられるようになり、自信をもって売れるようにもなりました。最初は0からで不安でした。
インターネットを使って色々試行錯誤もし、一番ヒットしたのはハート形のブラシで、結婚式に行くと引き出物の
カタログをもらうと思いますが、そこで好評で、ハート形ブラシを2つもらったというお客様の話も聞きました。
【山崎】このハート形ブラシのお話で土屋さんが可愛いという価値観を口にされましたけど、今、世界でも「可愛い」は
キャッチーで、認知されている言葉だと思うんです。海外に工場もあり、海外展開も見据えた上で「可愛い」
という価値観を出されたのですか?
それとも違うところから着想を得たものでしょうか?
【土屋】多くの人に手に取って欲しいという想いもあり、可愛いという付加価値を色んなプロダクトに、
伝統的な地場産業にくっつけてどうなるかという経済産業省の「可愛いもの研究会」プロジェクトから
始まりました。それまでは熊野筆は高級なイメージがあって、敷居が高いというか、そうじゃなく、
そこに可愛いという付加価値を付けたときに、誰もが気軽に手に取りやすくなるのか、
という観点で色々作っていきました。
【山崎】その可愛いから他の価値観もあって、ハートの商品や、色々な商品を展開されたのですね。一方で、
土屋さんは筆業界では異端児と思われる時もあり、「可愛いもの研究会」プロジェクトの後に、
やりづらさを感じたとか、苦い経験があったなど、お伺いできますか?お話しできる範囲で何か。
【土屋】自分の場合は恵まれていまして、晃祐堂は会長が書道筆の会社にOEMで毛先の部分を納入していて、
OEM(自社ブランドでなく、相手ブランドの製品を自社工場で下請けで作り、相手方は自社ブランドで
販売すること)で供給しており、その比率が結構多いので、会社との関係づくりは結構出来ていたんですね。
そんな中、会長の娘婿が福島から来たと。会長(義父)が根回しをしてくれていて、
入ってすぐの人間に高級筆作りという環境も与えてもらい、感謝しました。
色々新しい事業をやっていると、周りから引かれるような感じも時にはありましたが、
何年か経って実績がついてくると、そういう人たちも受け入れて下さり。やはり、実績が必要だと痛感しました。
【山崎】そういう意味では、一からモノ作りを始めると難しいハードルも、会長(お義父様)がいらして基盤が形成されて
いたところに飛び込めたのは良かったですね。事前の根回しがあったことも土屋さんご自身の魅力や、
一緒に成功させようという気持ちを持ってもらえないと、難しいと思いますが、心がけていたことはありますか?
【土屋】会長はすごい職人で、技術もありますので、最初から、自分は会長に出来ないことをやろうと思いました。
例えばこうやって人前で話して熊野筆の魅力を伝えるとか、様々な業種の方との交流を積極的に
やっていこうと思いましたね。
同じことをやっても追いつけないので、そこは絶対無理なんです。
その代わり、会長も苦手な部分があると思うので補い合うことが会社だと思います。
だからお互い競り合うのではなく、出来ないことは助け合っていければいいと思います。
【山崎】3人が同じことをしたいとなるとぶつかることもあるけど、お互いが出来ないことを補い合ってやるのは、
とても素敵な関係性ですね。一から立ち上げたいっていう方もいれば、土屋さんのように2代目で入る方も
いらっしゃると思うんですけどその時、お互いが補い合って事業していくってすごく勉強になりました。
【土屋】今、事業継承と言うと、後継ぎがいないって言うじゃないですか。私の場合は娘婿として入ったわけですけど、
そうやって事業継承される方も増えていくと思うんです。
M&Aも盛んですし、それで言える事は、周りとぶつからないように!だけです。
あとは味方を作ることも大事ですね。
味方を作るためには自分を理解してもらって、実績を作ることが大事だと思うので、まずは、そこからですね。
【山崎】なるほど、会長と義弟さんと3人で商品開発するときに、より建設的な形でぶつかり合って、
良いものを生みだしていくという、理想ながら、現実はなかなか難しく、建設的な形で意見をぶつけながら
新しいものを作り出していくコツは何かあるんでしょうか
【土屋】そうですね。これも、未だに難しいですよ。苦笑
会社は、ひとつの国だと思っていて、三国志みたいに、それぞれ特徴がある3つの国に分かれていて、
会長の出来ないことをやる。
副社長(義弟)が出来ないことをやるという形で、各々の特徴をうまく生かして。
案件を振るような感じで、みんなそれぞれ自我もあるので思いもある。
一回深呼吸をして、考えて、うまく伝わるように工夫し、いいところを尊重するようにしています。
【山崎】ものづくりの会社や、他のサービスでも、後継者を探したい企業さんはこれから増えていくと思うんですけど、
そういう時はやはり今の会社にはいない能力を持った人に継いでもらう。そういう人を探す、
そういう会社を探すというのがいいんでしょうか?
【土屋】そうとも言い切れず、一番は、その会社を好きか、第一条件としてはその仕事が好きか、ですね。
私は、少なくとも筆を使って作るのが好きですね。
【山崎】先ほど、最初のケーブルの会社から転職をされたときは、最初から今のお仕事が好きだったのでしょうか?
それとも何年か働くうちに好きになったという感じですか
【土屋】最初は、面白そう!という感じです。筆に興味というよりは、伝統的産業に興味がありました。
その中で、家族経営をしていて、これをみんなで力を合わせて伸ばしていったら楽しいなと思ったんですよ。
前の会社は大企業でケーブルを作っていて、一新入社員の力は微力だと思いましたが、晃祐堂に入ってからは、
自分の力でどこまで会社を伸ばせるかも考えていたんで、実際に入って、筆の魅力に気づいて、のめりこみ、
色んな業界に知ってもらいたいなと思っています。今は。
あとは、周りを理解する力が必要だと思います。相手のいいところを理解する力がすごく大事で、例えば、
俺が俺がとやりすぎると、敵ばかりになりますし、ある程度、我慢強く粘り強く会社の現状を理解して、
伸ばそうとすることを考えないと難しいと思いますね。
【山崎】そうすると、やはりいろんな能力が求められますね。全体を見る力や、自分が押すべきところと
引くべきところが分かっているとか、
それはもともと土屋さんに備わっている能力でしょうか、それともだんだん身に付いたものでしょうか
【土屋】実は自分は小さい時は、人見知りで人と話すことは苦手でした。
一人で読書や切手収集が好きで、子供の頃の自分が見たら、信じられないと思いますね。
【山崎】何回かご一緒させていただいて、いつもお話が上手で、場を和ませてくれるムードメーカーで、
その能力はすごいと尊敬していたので意外です。
二代目として会社を継承するのは、すごく大変だと思いますが、その能力は、
その後の努力で成し得るものでしょうか?
【土屋】それは、ある程度、僕ができているのでできると思いますね。
【山崎】土屋さんに備わった才能があるからできたことかなと思いました。これから自分が二代目で入る方、
M&Aを考えている方、会社を買う側の方にも励みになる言葉ですね
【土屋】才能って何でも言えるじゃないですか、例えば若いこと、元気があることも、考え方で何でも才能って言えると思います。
どこまで本気でやれるかが大事じゃないですかね。
世代によってとらえ方が違うんで一概に言えないですけど、私の世代は、
どちらかと言えば体育会系的な考えの方が多いと思うんですよ。
ただ最近の世代は違って、今の20代30代が私と同じことは難しいかもしれないですけど。
今は、多様化の時代になり色んな人が受け入れられるようになってきたと思うんです。
昔は男とはこうあるべきとか。
今はNGです。私の友達でもやはり20代の若手経営者がいて、ほんとに頑張っていて、
そんな彼を見ると助けたくなる。紹介したくなるので、やはり、人間性というか、昔はどうであれ、
今頑張っていたら応援しようみたいなところありますよね。
【山崎】いろんな価値観を持っている経営者さんや創業する方が増えていると思うので、
それぞれの持ち味を生かした方がいいですね。
情熱を待ちながら上手に可愛いがられる事が得意な、そのポテンシャルが高い方と、
そうなれない方も受け入れられて頑張っていく伸びしろを、周りのみんなが見つけられると良いと思いました。
【土屋】一人でやっていける人は一人でもいいと思うんですよ。だけど、いろんな人と接触することで、
場数を踏んで、人は成長していくと思うんですね。
【山崎】遠くに行きたければみんなで行け。という、みんなで一緒に協業するコツというか、
それも人によって、コミュニケーションが苦手な人もいると思うんです。
創業したばかりの方に向けたアドバイスはありますか
【土屋】これも自分で言っておきながら、人って必要ですけど、一番難しいですよ。
雇用の問題も、今どんどん難しくなってます。一つ言えるのは、友達だからできるとか、
面白いからやれとか、能力があるからやれではなく、
まず何をやってほしいか会社に人を入れるときは、できるだけ具体的に決めて、
それをミッションとして与えることが大事だと思いますね。
より具体的に伝えるのが大事ですね。言葉って難しいですから。
仲間を作るときも、全部細分化して、決めたほうがいいのかなと思いますね
仲いいからできるかというとそうでもない。仲が悪くなる時もある。
【山崎】同じミッションやビジョンを掲げて。ということをよく聞きますが、
土屋さんの場合は自分が持ってないもののピースを一緒に足しながら、
皆で大きなピースにしていくというイメージが強いんでしょうか
【土屋】大枠にあるのは理念ですね。そこから枝分かれして、自分と同じことが出来る人間もあり、
あとは出来ないことは何か、自分に出来ないことが出来る人がいたら仕事の幅は広がる。
そういうことが会社を残すことの秘訣だと思いますね。
【山崎】土屋さんはそれを見つけるのが得意なのだと思います。
自己理解も含め、それらを総合的にとらえて観る力はどのように磨いたらいいでしょうか
【土屋】会社は常に問題が起こりますので、それらをいち早く見つけるところから、ですね。
【山崎】問題や課題はチャンスで、そこを補完すれば一層飛躍するという考えですね。
【土屋】弊社には社長室はないので、日々、社員の色んな声がきこえてきます。
その中で、課題が見えてくるんです。本当は会社のいいところだけを見て進みたいですけど、
悪いところを直せばそこが伸びしろになるわけで、結果的にはその方がいいことだと思うんですよね。
問題がない会社は無いと思うし、何か起これば改善して、あとは自分が伸ばしたいところに力を入れて、
頑張っていくことですね。
【山崎】いい面を伸ばし、新しいことに注力しつつ、日々この課題を解決しながら三本柱が必要っていうところですね。
【土屋】あとは社員たちとのコミュケーションですね。
1年に何回かはヒアリングシートに正直に書いてもらって課題を見つけ解決しています。
案外、自分と新人で同じ課題だったりします。
【山崎】紙に書いたら言えることありますよね。私も会社を創業し、所属する講師さんは1000人規模でいるんですが、
いつも距離感に悩みます。
どこまで踏み込むべきかなど。
【土屋】会社ではグループ長とはすごくコミュニケーションを取っています。
ただそこから下の社員さんとかパートさんとかはほぼ接点は無いですね。
なので、年に何回かの飲み会や懇親会の場ではなるべくコミュニケーションをとるようにしてますね。
会社では、ある程度任せられる人間を育て、そこに色々任せてますね。
【山崎】まさにその飲み会に自分が毎回は居ないほうが話しやすい場合もあるだろうし、その頻度も迷います。
土屋さんはその辺でもすごくいい距離感なんでしょうね。
【土屋】会社では距離があるので、飲み会の席では近くなれるように意識しています。
会社では、厳しいイメージのほうが多いので、本当はこんな一面もあるとふざけて見せたり、
ただ、やりすぎると嫁に怒られますけどね。
【山崎】両方の面が必要ですね。個人的には、私が強く言えなくて、強く言うコツはありますか?
最近の経営者の方はモノ申せない方も増えてきている
気がしますけど、そのあたりどうしたらいいですか?
【土屋】会社の中で怒らなきゃいけないときはあえて、打たれ強い奴を怒って、そこから波及してくれればいいなと。
たまには、怒らないと、何が悪いかわからないので、あえて、強い人間を怒るようにしています。
【山崎】勉強になりました。そういう人を見る力にも長けていらっしゃると感じました。
人を見るときに注意している事はありますか?
【土屋】まずは、目を見ます。目を合わせて話してくれる人は問題ない。
目をそらす人は何かあるので気を付けた方がいいと思うんですね。
ただ、今は、基本的にみんないい人ばっかりです。私みたいな人間でも受け入れてくれるって事は。
【山崎】よくわかりました。ありがとうございます。
土屋さんの方で最近、新しいサステナブル的な取り組みをされているとお聞きしましたが
これからやっていこうとされる事業とか構想をもう少し詳しくお聞かせください。
【土屋】筆は主に動物の毛を扱って商品にしているので、時に動物愛護団体から苦情が来るんです。
実際は、食用のヤギの毛などを使い、最終的には筆供養までしていますが、SDGsの考えを持って、
今、企画しているのがビーガンブラシです。
天然でなく人工の植物性の毛を使って筆を作るということを考えています。日本におけるビーガンという考えについては
皆さんの意見もお聞きしてみたいです。
素材も、製造過程も全く違いますが、今後、考えていきたいと思っているところです。
あとは、できれば医療系など、新たな業界の方とコラボしてみたいです。
【山崎】医療系っていうのは具体的に?
【土屋】例えば、洗顔ブラシやボディブラシなど洗浄ブラシ、要は歯ブラシみたいなイメージですけど、
何か、世の中の役に立てるようなものができたら面白いとは思っています。
【山崎】なるほど、次々に新しい展開を見せてくれてこれからもとても楽しみですね。
最後に土屋さんにとっての起業とは何かというのをお伺いしてもいいでしょうか
【山崎】私自身は、起業とは少し違うので、おこがましいのですけど、やはり、人間力が勝負だと思います。
ネットとかいろんな時代になっても、誰からそのサービスやモノを買うかだと思うんですよ。
私が知る経営者の皆さんはみな人間的に魅力があるんです。
だから起業は、人間力を育てることによってなし得ていくと思います。
そもそも人間力がないと会社も成長していけないと思います。
起業とは、人間力をどんどん育てることだと思いますね。
ぜひ、皆さん人間力を成長させるためにも、起業して下さい!
【山崎】人間力を身に付けるファーストステップは何かありますか?
【土屋】色んな人とつきあってみることですね。日本酒(酒米)も人間も磨いてぎゅっと。
やっぱり人と付き合うことで悪いところが削り取られて、いいところが浮かび上がる
何度も削られるうちに、技が光ってくるみたいなイメージがあるので、いい人にも、悪い人にも
時々反面教師的に会ってください。
とにかく、いろんな人と会うことをお勧めします。
【山崎】なるほど奥が深いですね。私も人に会うことは好きなので早速、やって実行します。
今日のゲストは株式会社晃祐堂 取締役社長の土屋武美さんでした。
ありがとうございました。